今からちょうど22年前。
10歳の私は、まさに夏休みが明ける憂鬱さを誰にも話せず、学校へ行く意味を自問していた。
私学の小学校に通っていた私は40人1クラス。個性を掲げた教育方針の中にある「個性」という言葉に些かの疑問を感じるような子どもだった。
それでも私の周りには、私の
「何故、学校へ行かなければならないの?」
という問いに答えられる大人はいなかった。
今、私が同じ問いを受けたなら、私はこう答えるだろう。
「集団を学ぶためには悪くない場所だから」
と。けど、こうも付け加えたい。
「学校が全てじゃないよ」
と。
私は、小学校4年生(10歳)から、学校というものに行っていない。
けど、一応今日まで生きれた。
今、振り返ると私を苦しめたものも学校という箱にあり、その苦しみの吐け口を作ったのもまた学校という箱だった。
9歳の秋、まだかろうじて学校に行っていた頃、国語で詩の授業があった。
短い文章の中で、目に見えないものを比喩表現することの美しさに感銘した。
こう書くと、いかにも賢そうな子が、難しい詩を読んで感動したかのようだけど、単純に詩を書くことを面白いと思えたのだ。
私は「私の詩集」という一冊のノートを作り、毎日、詩を書き始めた。
誰に読んでもらうわけでもなく、誰かの、あるいは自分のためでもなく、ただ言葉を紡ぐことに「ハマった」のだと思う。
そのうち、私の中にある「何故、学校に行かなければならないの?」の問いは爆発しそうなほど、大きくなっていくのを感じた。
こんなに言葉を紡ぐことが好きで楽しい。
多分、私の人生には学校で教えてくれることより、たくさんの本が教えてくれる言葉のほうが必要で、役立つ気がする。
10歳の私は、何となくそう感じながら、生きてた。
結果的に、その勘は、まあまあ当たってたことになる。
10歳の10月。
私は遂に、1日も学校に行かない「不登校児」になった。
おそらく、全校生徒240人の私学の小学校では許されない、というより、許したくない存在だったことだろう。
誰に何を言われても、学校に行きたくなかった。
一応、小学校の名誉のために書いておくけど、いじめや暴力などがあったわけではない。
私は「学校に行かない人生」を選んだのだ。
その時、六法全書の中にこんな言葉を見つけた。
「義務教育にかかる義務は保護者に存在する」
子どもには学校へ行く義務があると、当時よく言われたけど、その義務は、私にはないんじゃん!
思わず、ガッツポーズをしそうになったことを覚えてる。
不登校だった期間、私はとにかく詩を書いて暮らした。
そりゃ、毎日、色々あったけど、空を見上げ、風を感じ、雲を追いながら詩を書く生活に、学校の何が勝るというのか、とずっと感じてた。
実際、この部分だけは、学校生活のどの部分においても、勝ることは出来ないと思う。
中学に上がっても、私はたまに保健室に行くぐらいで、「不登校」状態を続けた。
中学は高校と一貫の私学。
生徒は2年生になる頃、高校で進学コースに行くのか、文系か、理系か、を考え始めることを要求される。
私の選択肢には、その全てが存在しなかった。
私は、「詩で生きていきたい」と思うようになっていたのだ。
そして、それが現実になったのが、中学3年生の冬。
詩集を出版社を通じて、全国発売することが出来た。
初めての編集は、言うまでもなく、私にとって、学校の授業より刺激的かつ魅力的な経験だった。
けど、そんなに甘い業界ではないことは言うまでもない。
一生に一度の夢…
そう思っていた私に次の年、もう一度出版をという声がかかった。
詩で生きて行きたい。
それが何となく現実味を帯びて来た瞬間だった。
そして18歳の秋、
今度は個展を開催するチャンスを頂けた。
その時、私は心の中で思った。
学校で教えてもらったことで役立っているのは、礼儀作法かも、と。
それから、26歳の春まで、年3回のペースで個展をさせてもらい、ご来場者様の総数は1万人を超えた。
その一人一人を覚えていると言ったら、嘘になるけど、忘れられないお客様は数え切れない。
26歳から表舞台を少し休憩した私は、去年からまた少しずつ活動を再開している。
やっぱり詩は好きだ。
そしてやっぱり「学校」という言葉さえ、あまり好きにはなれない。
今、思う。
好きなことを貫く時、嫌いな何かは原動力になるのかもしれない、と。
学校に行きたくなかったから、詩を書き、学校に行きたくなかったから、詩で生きて行きたいと願った私がいるように。
今、「学校」に悩む君に、私は伝えたい。
学校は「全て」じゃない、と。
死なない程度に立ち止まって、他の「何か」を見付るのも悪くはなよ、と。
そして立ち止まる時間は死ぬほどのことに決して値しないよ、と。
早瀬さと子
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